戦後日本人民の魂をうたった詩人
略歴
礒永 秀雄(1921~1976年)は、戦後山口県光市に駱駝詩社を設立し、生涯、山口県を拠点に活動した詩人です。かれは、学徒兵としてニューギニアの手前のハルマヘラ島へ送られ、九死に一生を得て帰国したとき、生涯詩を書きつづける決意をしたいといっています。かれは戦場で苦しみ死んでいった幾多の戦友、戦争の惨苦をなめた幾千万の人人の側に立ち、平和で繁栄した日本の建設のために詩人として奮斗しつづけました。
いまわしい戦争の経験
八月の審判 〈抜粋〉
僕は昭和十八年の冬学徒臨時徴集で南の島に追いやられた。たくさんの学友たちが死んだ。海は一瞬にして三千人の兵を船もろとも呑んだ。強制使役が死ななくてすむ人々を次々と殺した。三百人が三十人になることはそう手間のかかることではなかった。「死にとうナカ」「茶碗で米のメシが喰いたい」「帰りたい、帰りたい、日本へ帰りたい」そういいながらジャングルの中で兵士たちは死んだ。
沖縄出身の兵士は故郷の悲報にあるいは発狂しあるいは逃亡し、見つけられては銃殺された。命令を受けた戦友の手で……。
連日の無差別爆撃と銃撃の下でついに斬込部隊が編成され、トカゲの鳴き声を空っぽの腹の底から出さなければならなかった。戦友の遺骸を焼くのも片腕から片肱に、はては手首から指一本にかわっていった。
煙が上がるときまって翌朝爆撃を受けるならわしだったから、火を焚くのは夕もやから朝もやにかけてつまりもやに擬装されたあがり方でなければならなかった。
野戦病院の戦友の遺骸を受け取りに行けば軍医はメスで無造作に友の手首からさきを切り取り、セロファンにつつんで、それを彼の飯ごうにぶちこんで黙って渡してくれた。
まだある。まだまだある。数え切れないほどいまわしい思い出は残る。
しかしとにかく僕は帰って来た。ニューギニアの果てから。生き残って。かすり傷一つしないで。元気に、少なくとも元気に、もう殺されることのないことを信じて、生き長らえて帰って来た。
僕の眼を射たものはすばらしい日本の野山の美しさだった。すがすがしい緑だった。さわやかな水の色だった。帰っていく家もない僕はこの野山の美しさのある限り残されたいのちを詩人に賭けようと思った。奪われた幾多の夢を取り戻すために、永遠に青春を生きるために、僕自身何よりも先ず人間であり日本人であるあかしをするために。
(1960年8月10日)
人人の役に立つ詩を
詩論・現代詩の根本問題について〈抜粋〉
私たちは、戦争というもののおそろしさを今日ほどひどく見せつけらえたことはありません。しかも、戦後世の中は表向き明るさを増しながら、生活は愈々暗い根を張りはじめています。こうした歴史的な社会の中で、少なくとも時代詩を口にする場合、この社会情勢と無縁な詩を書く事は、どの良心もが許さないことです。
詩を作るよりも田を作れといわれた時代の詩人が書いていたものと、現代において私たちの書く詩は、まったく質を変えているのです。だいたい「詩人」という名は、本当に多数の人の魂をゆり起してくれた詩を書いた人にたいして、人々の側からつける言葉であって、私たちは詩人であるより前に、まず人間であり、社会人であり、誰彼と変わらない存在なのです。
ただ自分の生き方を示す一つの方法として詩を書いているのであり、己の正しい生き方、社会の正しいあり方に鞭打たれて、より納得のいく正しい生き方を生むために詩精神という濾過機を持ち歩いているのです。
現代詩はいままでは一部の文学青年たちのなぐさみに似ていました。ところが最近になってやっと、一時的な青春感動で処理できるような甘っちょろいものではないことがわかってきたのです。
人間と社会と歴史と、その組み合わせの中で詩人は何よりも意志的で行動的で冷静かつ鋭敏に新しい世界の創造に参与しなければならぬ倫理的な命題を持ち、その線に沿って作品活動をつづけなければならないのです。そうした場合、私はやはり何らかの意味で役に立つ詩を、と願います。そしてそれは少数よりも多数の人々に役立つ詩をと希います。
(1955年6月25日)
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原爆と戦争展パネル集
被爆者・戦争体験者は訴える
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編 集 :下関原爆展事務局 取扱 :長周新聞社
サイズ :155㎜×225㎜ ページ数:148頁
定 価 :1,000円
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いそなが ひでお
礒永 秀雄の
詩と童話
青少年が奮起する作品集
発行 :長周新聞社
サイズ :257㎜×182㎜
ページ数:71頁
価格 :定価500円
礒永秀雄の世界
発行 :長周新聞社
サイズ :129㎜×182㎜
ページ数:367頁
価格 :定価1,700円(税別)
●更新情報●
11/10 原爆と戦争展のご報告とご来場者の声アンケート掲載
戦争で犠牲となられた方々の御霊に謹んで哀悼の意を捧げます。そして、今もなお被爆による後遺症で苦しんでおられる方々に心からお見舞い申し上げます。
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