虎
暗い暮らしの谷を這い
腹ばいながらこの草かげまで来た
月ばかりが冷たく明るく
夜風ばかりがやさしいという時
俺は吼えることを忘れ
つつましくとかげや蛙を食って
飢えをしのいで来た
俺はさらに地べたを這い
かけられた罠をかぎ分けながら
水を求めて歩きだすと
遠くの籔のざわめくのを聞いた
あちら そしてこちら
俺とおなじ疲れた虎が
獲物を待ってひそんでいるのだ
その低いうめきを聞くと
俺はむしょうに腹が立って来た
あいつらも俺と同じように
まだ死なぬまだ死なぬと思いながら
しだいに見さかいのつかぬ
人食い虎に変貌していくのだ
疲れがおのれを罠に追いこみ
狩人たちのかっこうの餌になるのだ
俺はぞっと身ぶるいする
俺は飢えの果ててめざめる
俺はいきなり草むらを蹴り出
こうべをあげて吼える
起きろ 虎
吼えろ 虎
人を食い家畜を襲う
あのうらぶれた虎になるな
俺たちの腕の一撃
俺たちの牙の力は
獅子を打ち倒すために備えられた
俺たちの歯は強く
噛みつけば奴の力によって
奴がもがけばもがくほど
奴の首をねじる
俺たちは虎
俺たちの祖先は
龍が天に昇るのさえ阻んだというではないか
俺たちは虎
しかし まさしく俺たちは虎
友よ
君のその黒い縞も
黄色い皮にあてられた焼ごての跡ではなかったか
白い天の とてつもない白い天が
焼きつけた屈辱の印ではなかったか
(1962年1月1日)
●更新情報●
11/10 原爆と戦争展のご報告とご来場者の声アンケート掲載
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