礒永 秀雄

詩: 虎

 

暗い暮らしの谷を這い

腹ばいながらこの草かげまで来た

月ばかりが冷たく明るく

夜風ばかりがやさしいという時

俺は吼えることを忘れ

つつましくとかげや蛙を食って

飢えをしのいで来た

俺はさらに地べたを這い

かけられた罠をかぎ分けながら

水を求めて歩きだすと

遠くの籔のざわめくのを聞いた

あちら そしてこちら

俺とおなじ疲れた虎が

獲物を待ってひそんでいるのだ

その低いうめきを聞くと

俺はむしょうに腹が立って来た

あいつらも俺と同じように

まだ死なぬまだ死なぬと思いながら

しだいに見さかいのつかぬ

人食い虎に変貌していくのだ

疲れがおのれを罠に追いこみ

狩人たちのかっこうの餌になるのだ

俺はぞっと身ぶるいする

俺は飢えの果ててめざめる

俺はいきなり草むらを蹴り出

こうべをあげて吼える

起きろ 虎

吼えろ 虎

人を食い家畜を襲う

あのうらぶれた虎になるな

俺たちの腕の一撃

俺たちの牙の力は

獅子を打ち倒すために備えられた

俺たちの歯は強く

噛みつけば奴の力によって

奴がもがけばもがくほど

奴の首をねじる

俺たちは虎

俺たちの祖先は

龍が天に昇るのさえ阻んだというではないか

俺たちは虎

しかし まさしく俺たちは虎

友よ

君のその黒い縞も

黄色い皮にあてられた焼ごての跡ではなかったか

白い天の とてつもない白い天が

焼きつけた屈辱の印ではなかったか

(1962年1月1日)

こがらしの中で
こがらしの中で
ちょっと待て

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 原爆と戦争展のご報告

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期間:2024年8月20日~28日

ところ:山口県岩国市中央図書館 展示室

戦争で犠牲となられた方々の御霊に謹んで哀悼の意を捧げます。そして、今もなお被爆による後遺症で苦しんでおられる方々に心からお見舞い申し上げます。 

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